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漫画にしようかどうしようか、迷って結局数年ぶりにSSもどきを書いていました(笑)
文章難しいよー…www

というわけで、自分のネタ放出も込めて、スカイ開業前とそれからちょっとの、横須賀視点のネックスの話。というかただの横須賀の独り言。
成田線が出てくるけど、ちゃーんと考えてないので若干会話だけでぼかしております(笑)


[]

大人しい。
それが今度の新人の第一印象だった。
行き先表示器は「試運転」、真新しいその車体は大船駅のホームで調整している。あと少しで、この子も営業運転が始まる。
飛行機をイメージしたロゴマークと、彼の愛称「N'EX」が眩しい。
物言いや動作、性格が固いのは仕方ない。新型車両はそんなもんだ。
長いこと走って、慣れて揉まれて教わって、やっと人間に近付いていく(と言っても、俺だって人間じゃあない。)
この子の先代も、最初は固かったような気もするが、今では見る影もない。いい意味で。

ただ、違和感を感じている。
固すぎる、というわけでもない。大人しすぎる…?
返す言葉は機械的。笑顔も社交辞令のように、決まったところで見せる。その笑顔もいつも同じ。
感情っていうものを、どこかに忘れてきたみたいに。
(これは総武も成田も大変だな…)

彼のことを、少し東海道に聞いてみた。
聞いたことを簡単に言うと、やっぱり「バグっている」らしい。
車両に欠陥だの不便なところはあるもんだ、が、そういうものではないらしい。
なんでも、技術者の思念が混ざったと。まあ、ライバルに勝ちたいっていうのは誰でもそうなんだろうか。
『スカイライナーに負けないように』
テストが終わって、もうすぐ起動、ということこで入れられたメソッド。
それはどこの回路からも繋がらないところに存在している。

つまり、ネックスの中には「スカイライナー」が存在する。
けれど、ネックスの思考の中には「スカイライナー」は存在しない。

起動直前にそんなもの入れられたもんだから、他の回路とかにも影響が出てるとか。
…もしも、その回路が繋がることがあれば、どうなるんだろうか。

****

「横須賀さん」
「え?」
急に声をかけるもんだから、声が上ずった。
それには反応したらしく、目の前の彼…ネックスは首をかしげた。
「切り離し、終わりました」
成田空港から来たネックスは、東京駅で6両を切り離して、半分は新宿方面、半分は横須賀線を使って大船方面に走る。
「あーうん、じゃあ行くか」
はい、と返事だけして彼は車両に乗り込んでいく。
その背中は、走り始めの頃よりも頼もしい。
「…ネックス」
「はい」
振り向いてきょとんとしている。
「…無理はすんなよ?」
「…はい」
そうして薄く微笑んだ。相変わらず口数は少ないけれど、少しずつ成長している。

そろそろ、2010年の夏がやってくる。

****

「今日、京成の新型の開業式だったんですよ~」
成田は律儀にも報告に来た。俺も行こうかと思っていたが、まあ仕事もあるし、海のないところは嫌いだ。
「そんで?」
「かっこよかったですよ~」
そうにこにこして俺を見る。
…そりゃあ新型だしな…。
「ほえ~って見てたら、その新型、ひょこ~っとうちのホームに来て、」
…は?
「ちょうどネックスもいたんですけど~」
ゆっくりした口調で大事なことがダダ漏れしているような気がする。
俺は写真でしか新型を見たことないが、まったく光景が想像できない。
「ちょ、成田!」
「はい!?…どしたんですか、横須賀。変な顔して。」
「ネックスもいたってことは、あいつら会ったんだろ?」
成田はきょとんとして、少し考えてああ、と手を合わせる。
「なんか普通にフツーでしたよ~。スカイライナーが、君に会いたかったってネックスの手握って。」
新型が…手を…?ネックスの…?
何が普通にフツーの光景なのかはともかく、何だか俺の中の心配だとか色々が崩れ去っていきそうなんだが。

それから、何度か成田空港まで足をのばしてみたりした。
「あ、横須賀さん」
ネックスはちょうど車両から出てきたところだった。
「最近どう?」
「変わらないです」
変わらない、という言葉に多少の疑問を持った。
予想通りというか、予想外というか。
スカイライナーが開業したことは、きっとネックスにとって、視界に入るものがひとつ増えたことにすぎないのか。
しかし心なしか。なんか違う。
それが何なのか横須賀にも分からず、ネックスの顔を見ながら首をかしげた。
すると、目の前のネックスも首をかしげた。
思わず笑うと、ネックスも笑った。
…なんだ。変わりなくはないじゃないか。
横須賀は笑ってすぐ無表情に戻ったネックスの目を見て、少し困ったように笑った。

車両達は慣れ、成長していくもの。
いつか、ネックスの中にある「スカイライナーに負けないように」と祈って混ざったそれに、回路が繋がってしまわないか。
それを認識した彼は、何を思い、何をするのか。
すべてが未知。

俺は東海道が好きだ。
だから京急が嫌いだ。だから直通してるやつらも嫌いだ。
でも、新型によって彼が幸せに、かつ変わっていけるのなら、俺はそれを壊したくはない、

…なあネックス。
それだけは変わらずに、それだけは離さずに、俺のように手離さずに、ずっと持っておけ。
いつかそれは掌にしみついて、ずっと消えないものになるからな。

横須賀は知っている。
路線と違い、車両には寿命があることを。
解体されていく様を。
譲渡されれば、どうなっていくことを。

きっと、譲渡された車両は、前どこを走っていたのか、誰がいたのか覚えていない。むしろ、自分が譲渡されたということも知らないだろう。
中のハードディスクは、総取り換えだからだ。
情報を守るために取り替えて、とりだされたハードディスクは物理的に破壊される。
長野で走る初代ネックスは、俺のことなんて忘れてしまうだろう。
車体だけが覚えている、すべてのこと。

「あれ、横須賀~?」
「成田」
横須賀色のE217系に乗って、成田がホーム降りてくる。
「珍しいね~、横須賀が空港にいるなんて~」
「…たまにはな、可愛い後輩の仕事見に来てんだよ」
ネックスは困っているような顔をしている。
「…お前のことだよ」
はっとして、彼は嬉しそうに笑った。

end.
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